UTAU-BLOG 3

by YOSHIKI HORITA from iMAGINATIONS

世界はひとりひとり目を向ける方向に存在する。


先週末、フットサル中に足首を内返しの状態にひねって、靭帯を伸ばしてしまった。いわゆる捻挫。

その瞬間はポキーンと音がして、「キャン」と自分でもなかなか聞かない声が出たことにまず驚いたが、骨ではなかったのが何より幸い。チームメイトで芸人の小澤くんがすぐにアイシングをしてくれたおかげで、腫れもさほど出ずに済んだ。レントゲンを撮りに行った病院の先生もその処置を絶賛していた。ありがたい。

現在は足首を固定するサポーターを装着して松葉杖を突いているのだが、生活に2本の棒が加わっただけでいろいろの発見があった。

当たり前なことに、基本的には何をするにも不便である。買い物なんて、2Lのペットボトルを片手に持ったら、あとどうしようという感じ。余計なものを買わずに済んで節約にはいいかもしれない。

この一週間で3回電車に乗った。まず、エレベーターもエスカレーターも無い駅はかなりの根気と集中力を要する。他に、改札への降り口が道路を挟んだこっち側とあっち側にある地下鉄で、ホームに着いたら行きたい進行方向が逆、反対側のホームまでさらに階段を昇り降り、という駅もある。普段は何とも思わない構造も、今は設計チームを横一列に並べて話し合いを持ちたい気分である。

その点、バリアフリーの施設は本当に素晴らしい。愛の形そのものと言っていい。砂漠にオアシスを見つけたような、美しき希望の光。

そして電車の中にて。これには非常に驚いたのだけれど、なんと一度も席を譲られることがなかった。意外。

実際のところ重傷という訳でもないので、座る/座らないはどちらでもいい。まあ、もし空いていたならば、そりゃ腰掛けられたほうが助かる。けれど席は埋まっていて、椅子の上の人たちは8割9割が携帯電話、スマートフォンを見ていて、残りの人は寝ていた。つまり松葉杖の人(ワタシ)に気づいていない。もしかすると、座っていた全員が怪我人と病人だったとか、携帯&スマホも実家の一大事で早急な連絡が求められていたとか、という可能性も無くはないので、めったなことは言えない。それでもこれ、ご高齢の方や体の不自由な方、妊娠中や子供を抱いたお母さんとかが僕と同じ状況なら、結構しんどいだろうなと感じた。

普段、移動で新幹線の駅や空港へ行くことが多い。5日から1週間の旅ともなると、そこそこの大荷物。さらに楽器を持っていれば、冬でもいい汗をかけるほどだ。ギターとハルモニウムをダブルで運ぶこともあり、そんな時は「トレーニング、トレーニング」と思うようにしていて、フィジカルとメンタルを同時に鍛えている。それはさておき、空港や新幹線までの電車で、朝の混雑時にぶつかることもある。満員の車内に大荷物。迷惑に感じる人がいるのも仕方がない。露骨にいやな顔をされたり、舌打ちされたこともある。けれど、出入り口の端のスペースを空けて、場所を代わってくれる人もいる。大きな荷物を片側に寄せておけば、扉の開閉時に人の流れがスムーズになる。つまり、荷物を持っている人のためにも、全体のためにもなることを知っているのだ。僕も逆の立場の時には同じことをしていて、トランクやベビーカーの人にそうするのは自分の中ですでに当たり前になっている。優しさのお互い様。親切はしてもされても嬉しい。

とは言っても、人にも同じ価値観を期待するのはまた別問題。知らないことは、なかなか自然にできないものなのかもしれない。

なので何ごとも経験してみるのはいい。全国民が年に一度くらい、入れ替わりで"松葉杖の日"や"ベビーカーの日"など作ってみるとか。確実に視野と想像力が広がると思う。

僕自身、この怪我をしてからというもの、やたらと松葉杖の人を見かけるのだ。昨日なんて午前中だけで3人とすれ違った(杖を突いているお年寄りはもっとたくさんいた)。いつも口にしていることだけれど、どこに目を向けるかによって自分の世界は様変わりする。聴覚の"カクテルパーティー効果"と同じように、視覚も見たいものだけを見ていて、それ以外はスルーされていく。自分と似たものには自動的にピントが合いやすい。話を飛躍させるつもりはないが、心から幸せを感じている人には幸せな状況がどんどん現れる、というのも同じようなこと。よく目に入るものや、よく耳にする情報が、今の自分の内面を鏡のように教えてくれているとも言える。今回も、少し前まで気になっていたのに、怪我の後はもはやどうでもよくなっていることが幾つかある。

友人、仕事仲間、生徒さんたちからは、痛みを忘れるほどの優しい心遣いを受け取っていて、僕も今すごく人に優しくしたい気持ちでいる。そして月並みな言葉だけれども、健康で体が自由である状態の有り難さを、心の底から噛み締めている。本気で遊んで怪我して気づけたことに感謝しつつ、次は怪我しないようにも心を配ろう。「よく遊び、よく学べ」とは、こういうことなのだろう。あれ、遊びと学びの順序が逆? まあいいか。
 

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