UTAU-BLOG 3

by YOSHIKI HORITA from iMAGINATIONS

ドイツ首相の演説から学ぶ、今の日本にも絶対に必要な心構え。

世界に先駆けて、入国制限、後に入国禁止、そして全土で一時外出禁止、さらにロックダウンを実施したインドに僕はいた。当初は、あまりにも厳しすぎるのでは?と、疑問だらけだった。現地の誰もが、本当に大変な思いをしていたから。

けれど、世界中での急激な感染拡大を知るにつれ、僕も、まわりの人びとも、考えに変化が現れてきた。

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昨日、幸運にも帰国することができたのだけれど(そこに至る話はまた後日)。羽田空港で、そして自宅へと向かうその途中で、目に入った様子にかなりの衝撃を受けている。

まず、空港に降りた僕たちには、簡易検査すら行われず、「熱がある人、体調がすぐれない人はあちらへどうぞー」という、ゆるゆるの声がけ(よく聞かないと気づけない声量)があっただけ。僕には見えなかったが、あちらへ向かう人はいたのだろうか。

ちなみに、僕がインドへ入国した2月中旬の時点でも、エア・インディア機内では最近の渡航歴と体調を記入する用紙が配られ、デリー空港に到着するや全員の体温が計られた。その時は驚いたが、今となっては賢明な策だったとつくづく思う。

羽田にも、帰宅の道すがらにも、マスクなしで歩く人、普通に仕事をしていると思われる人、人、人。

やや静かなように思える他は、いつもとさほど変わらないではないか。あまりにゆるすぎるのでは? と疑問…、いや、恐怖さえ感じたことを、正直に伝えておきたい。

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3月30日の東京新聞。日本政府は、米中韓から入国拒否の方針。安倍晋三首相は近く政府対策本部を開き、こうした入国拒否措置の実施を表明するという。

遡って3月25日の朝日新聞。海外からの帰国者や、訪日外国人の新型コロナウイルス感染が急増との報告。

このようなデータがあったにも関わらず、これまで何ら対策を打たなかった日本政府。今頃になって入国拒否の議論とは、世界からかなり遅れを取っていると言わざるを得ない。国内感染者数は3月1日時点で256名、一ヶ月経ち、今日31日には1923名。ご存知のように、比例して死者も増え続けている。

僕が滞在していたRishikeshは、インド国内からだけでなく、多くの外国人も集まるYogaの聖地だ。町全体がベジタリアン食で、ここに住む、あるいは訪れるのは、自然との繋がり、人同士の繋がりにも高い意識を持つシャンティな人が多い。彼らと話をする中、日本のゆるい対策に、憤り、あるいは怒りを持つ正直な声も聞いた。無理もないと思う。これは地球規模で取り組む問題なのだから。

仲間たちにも知ってほしい。今、世界で何が起こっているのかを。日本の政治家や、国内のニュースからは、なぜか聞こえてこない、見えてこない事実がある。あなたと、あなたの大切な人を守ってほしい。僕も、自分と、自分の大切な人を守りたい。

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ここで、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が3月18日に行なったテレビ演説を共有したい。インドのモディ首相同様、一国のリーダーとして明確なメッセージを伝えている。国民の心に寄り添おうとする言葉も印象的だ。日本で暮らす僕たちにとっても、今後の感染拡大を緩和できうるヒントになると思う。

日本語訳は、林フーゼル美佳子さん(https://www.mikako-deutschservice.com/)によるもの。ご本人に連絡してシェアの許可をいただいた。美佳子さん、全文の翻訳を、そして快く引用を受け入れてくださってありがとうございます。

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親愛なる国民の皆様

コロナウイルスは、現在わが国の生活を劇的に変化させています。私たちが考える日常や、公的生活、社会的な付き合い ― こうしたものすべてが、かつてないほど試されています。

何百万人という方々が出勤できず、子どもたちは学校、あるいはまた保育所に行けず、劇場や映画館やお店は閉まっています。そして何よりも困難なことはおそらく、いつもなら当たり前の触れ合いがなくなっているということでしょう。

もちろんこのような状況で私たちはみな、これからどうなるのか疑問や心配事でいっぱいです。


私は今日、このような、通常とは違った方法(= テレビ演説)で皆様に話しかけています。それは、この状況で連邦首相としての私を、そして連邦政府の同僚たちを何が導いているのかを皆様にお伝えしたいからです。

開かれた民主主義に必要なことは、私たちが政治的決断を透明にし、説明すること、私たちの行動の根拠をできる限り示して、それを伝達することで、理解を得られるようにすることです。

もし、市民の皆さんがこの課題を自分の課題として理解すれば、私たちはこれを乗り越えられると固く信じています。このため次のことを言わせてください。


事態は深刻です。あなたも真剣に考えてください。東西ドイツ統一以来、いいえ、第二次世界大戦以来、これほど市民による一致団結した行動が重要になるような課題がわが国に降りかかってきたことはありませんでした。

私はここで、現在のエピデミック(Epidemic = 伝染病)の状況、連邦政府、および各省庁がわが国のすべての人を守り、経済的、社会的、文化的な損害を押さえるための様々な措置を説明したいと思います。

しかし、私は、あなたがた一人一人が必要とされている理由と、一人一人がどのような貢献をできるかについてもお伝えしたいと思います。


エピデミックについてですが、私がここで言うことはすべて、連邦政府とロバート・コッホ研究所の専門家やその他の学者およびウイルス学者との継続審議から得られた所見です。世界中で懸命に研究が進められていますが、コロナウイルスに対する治療法もワクチンもまだありません。

この状況が続く限り、唯一できることは、ウイルスの拡散スピードを緩和し、数か月にわたって引き延ばすことで時間を稼ぐことです。これが私たちのすべての行動の指針です。研究者が薬とワクチンを開発するための時間です。また、発症した人が、できる限りベストな条件で治療を受けられるようにするための時間でもあります。

ドイツは素晴らしい医療システムを持っています。もしかしたら世界最高のシステムのひとつかもしれません。そのことが私たちに希望を与えています。しかし、わが国の病院も、コロナ感染の症状がひどい患者が短期間に多数入院してきたとしたら、完全に許容量を超えてしまうことでしょう。

これは統計の抽象的な数字だけの話ではありません。お父さんであり、おじいさんであり、お母さんであり、おばあさんであり、パートナーであり、要するに生きた人たちの話です。そして私たちは、どの命もどの人も重要とする共同体です。

私は、この機会にまず、医師として、または介護サービスやその他の機能でわが国の病院を始めとする医療施設で働いている方すべてに言葉を贈りたいと思います。あなた方は私たちのためにこの戦いの最前線に立っています。あなた方は最初に病人を、そして、感染の経過が場合によってどれだけ重篤なものかを目の当たりにしています。そして毎日改めて仕事に向かい、人のために尽くしています。あなた方の仕事は偉大です。そのことに私は心から感謝します。


さて、重要なのは、ドイツ国内のウイルスの拡散スピードを緩やかにすることです。そして、その際、これが重要ですが、1つのことに賭けなければなりません。それは、公的生活を可能な限り制限することです。もちろん理性と判断力を持ってです。国は引き続き機能し、もちろん供給も引き続き確保されることになるからです。私たちはできる限り多くの経済活動を維持するつもりです。

しかし、人を危険にさらす可能性のあるものすべて、個人を、また共同体を脅かす可能性のあるものすべてを今減らす必要があります。人から人への感染リスクを可能な限り抑える必要があります。今でもすでに制限が劇的であることは承知しています。イベント、見本市、コンサートは中止、とりあえず学校も大学も保育所も閉鎖され、遊び場でのお遊びも禁止です。

連邦政府と各州が合意した閉鎖措置が、私たちの生活に、そして民主主義的な自己認識にどれだけ厳しく介入するか、私は承知しています。わが連邦共和国ではこうした制限はいまだかつてありませんでした。

私は保証します。旅行および移動の自由が、苦労して勝ち取った権利であるという私のようなものにとって、このような制限は絶対的に必要な場合のみ正当化されるものです。そうしたことは民主主義社会において決して軽々しく、一時的であっても決められるべきではありません。しかし、それは今、命を救うために不可欠なのです。このため、国境検査の厳格化と、重要な隣国数か国への入国制限令が、今週初めから発効しています。


経済全体にとって、大企業も中小企業も、商店やレストラン、フリーランサーにとっても同様に、今は非常に困難な状況です。

今後、何週間かはいっそう困難になるでしょう。私は皆様に約束します。連邦政府は、経済的影響を緩和し、特に雇用を守るために可能なことをすべて行います。

わが国の経営者も被雇用者も、この難しい試練を乗り越えられるよう、連邦政府は必要なものをすべて投入する能力があり、またそれを実行に移す予定です。

また、皆様は、食料品供給が常時確保されること、たとえ一日棚が空になったとしても補充されることを信じて、安心してください。スーパーに行くすべての方にお伝えしたいのですが、備蓄は意味があります。ちなみにそれはいつでも意味のあるものでした。けれども限度をわきまえてください。何かがもう二度と入手できないかのような買い占めは無意味ですし、つまるところ完全に連帯意識に欠けた行動です。

ここで、普段滅多に感謝されることのない方たちにもお礼を言わせてください。このような状況下で日々スーパーのレジに座っている方、商品棚を補充している方は、現在ある中でも最も困難な仕事のひとつを担っています。同胞のために尽力し、言葉通りの意味でお店の営業を維持してくださりありがとうございます。


さて、今日私にとって最も緊急性の高いものについて申し上げます。私たちがウイルスの速すぎる拡散を阻止する効果的な手段を投入しなければ、あらゆる国の施策が無駄になってしまうでしょう。

その手段とは私たち自身です。私たちの誰もが同じようにウイルスにかかる可能性があるように、今誰もが皆協力する必要があります。まず第一の協力は、今日何が重要なのかについて真剣に考えることです。パニックに陥らず、しかし、自分にはあまり関係がないなどと一瞬たりとも考えないことです。不要な人など誰もいません。私たち全員の力が必要なのです。

私たちがどれだけ脆弱であるか、どれだけ他の人の思いやりのある行動に依存しているか、それをエピデミックは私たちに教えます。また、それはつまり、どれだけ私たちが力を合わせて行動することで自分たち自身を守り、お互いに力づけることができるかということでもあります。

一人一人の行動が大切なのです。私たちは、ウイルスの拡散をただ受け入れるしかない運命であるわけではありません。私たちには対抗策があります。つまり、思いやりからお互いに距離を取ることです。

ウィルス学者の助言は明確です。握手はもうしない、頻繁によく手を洗う、最低でも1.5メートル人との距離を取る、特にお年寄りは感染の危険性が高いのでほとんど接触しないのがベスト、ということです。


こうした要求がどれだけ難しいことか、私は承知しています。緊急事態の時こそお互いに近くにいたいと思うものです。私たちは好意を、身体的な近さやスキンシップとして理解しています。けれども、残念ながら現在はその逆が正しいのです。これはみんなが本当に理解しなければなりません。今は、距離だけが思いやりの表現なのです。

よかれと思ってする訪問や、不必要な旅行、こうしたことすべてが感染拡大を意味することがあるため、現在は本当に控えるべきです。専門家がこう言うのには理由があります。おじいちゃん、おばあちゃんと孫は、今、一緒にいてはいけないと。

不必要な接触を避けることで、病院で日々増え続ける感染者の世話をしているすべての方々を助けることになります。こうして命を救うのです。多くの人にとってこれはきついことでしょう。誰も一人にしないこと、声かけと希望が必要な方たちの世話をすることも重要になってきます。私たちは家族として、また社会として別の相互扶助の形を見つけるでしょう。


今でもすでに、ウイルスとその社会的影響に対抗する創造的な形態が出てきています。今でもすでに、おじいちゃん、おばあちゃんがさみしくないように、ポッドキャストをするお孫さんたちがいます。

私たちは皆、好意と友情を示す別の方法を見つけなければなりません。スカイプや電話、Eメール、あるいはまた手紙を書くなど。郵便は配達されるのですから。自分で買い物に行けないお年寄りのための近所の助け合いの素晴らしい例も、今話題になっています。

まだまだ多くの可能性があると私は確信しています。私たちがお互いに一人にさせないことを社会として示すことになるでしょう。


皆様にお願いします。今後有効となる規則を遵守してください。私たちは政府として、何が修正できるか、また、何がまだ必要なのかを常に新たに審議します。

状況は刻々と変わりますし、私たちはその中で学習能力を維持し、いつでも考え直し、他の手段で対応できるようにします。そうなればそれもご説明します。このため、皆様にお願いします。噂を信じないでください。公的機関による発表のみを信じてください。発表内容は多くの言語にも翻訳されます。


私たちは民主主義社会です。私たちは強制ではなく、知識の共有と協力によって生きています。これは歴史的な課題であり、力を合わせることでしか乗り越えられません。

私たちがこの危機を乗り越えられるということには、私はまったく疑いを持っていません。けれども、犠牲者が何人出るのか。どれだけ多くの愛する人たちを亡くすことになるのか。それは大部分私たち自身にかかっています。私たちは今、一致団結して対処できます。現在の制限を受け止め、お互いに協力し合うことができます。


この状況は深刻であり、まだ見通しが立っていません。 それはつまり、一人一人がどれだけきちんと規則を守って実行に移すかということにも事態が左右されるということです。

たとえ今まで一度もこのようなことを経験したことがなくても、私たちは、思いやりを持って理性的に行動し、それによって命を救うことを示さなければなりません。それは、一人一人例外なく、つまり私たち全員にかかっているのです。

皆様、ご自愛ください、そして愛する人たちを守ってください。ありがとうございました。

以上、引用元:
追記:
感染者と致死率のデータ(3月27日)で見ると、イタリアの10%、スペインの7%などに比べ、ドイツは0.6%と群を抜いて低い。この理由について、ドイツの専門家は「週50万件の検査による感染者の早期発見がある」と指摘している。ドイツから見習うべき点は多い。